北海道大学名誉教授 牛沢 信人

![]() 図1 別海フィールド(研修道場)位置図 |
![]() 図2 フィールド内見取図 |
![]() 図3 フィールド周縁の地形図 (岡崎 1987) |
![]() 図4 フィールド付近の地形地質区分図 (岡崎 1989) |
![]() 図5 野付崎竜神崎付近のボーリング柱状図 (岡崎 1989) |
![]() 図6 地質柱状対比図 (赤松 1989) |
![]() 図7 洪積期中期以降の海水面、海中温度の変動図 (赤松 1989) |
![]() 図8 気温変動図 (A.現在,B.縄紋海進期,C.中期更新世海進期 (赤松 1989) |
![]() 図9 根釧地方における沖積世の火山灰層の分布 (山田 1940) |
| 符号* | 根室国 | 釧路国川上郡 | 釧路国厚岸郡 |
| 0 | 摩周統A火山灰層 | 摩周統A火山灰層 | 摩周統A火山灰層 |
| 1 | 雌阿寒統火山灰層 | ||
| 2 | 跡佐登統A火山灰層 | ||
| 3 | 跡佐登統B火山灰層 | ||
| 4 | 摩周統B火山灰層 | 摩周統B火山灰層 | 摩周統B火山灰層 |
| 5 | 摩周統C火山灰層 | 摩周統C火山灰層 | 摩周統C火山灰層 |
| 6 | 摩周統D火山灰層 | 摩周統D火山灰層 | 摩周統D火山灰層 |
| 7 | 摩周統E火山灰層 | 摩周統E火山灰層 | |
| 8 | 跡佐登統C火山灰層 | ||
| 9 | 摩周統F火山灰層 | 摩周統F火山灰層 | 摩周統F火山灰層 |
| 10 | 摩周統G火山灰層 | ||
| 11 | 摩周統H火山灰層 | ||
| 13 | 摩周統J火山灰層 | ||
| 14 | 摩周統K火山灰層 | ||
| 15 | 摩周統L火山灰層 |
野付崎の分岐砂嘴の発達の度合の消長は、この小刻みな海水準の変動に対応したものとみられる。(図10)
海水準がほぼ安定化した時期以降、当幌川の流域の、主として自然堤防の背後に湿地帯の形成がみられた。
湿地帯(泥炭)は、一般的にいって農業や交通の障害になる。だから全国的には泥炭地の抹殺がむしろ開発とともに速進された。今ありのままの自然の保護、湿地帯と植生、生物とのかかわりあいの深さなどが深刻に見直されるようになって、幸いにも開発のおくれた道東の湿地帯がクローズ・アップされたといえよう。本別海フィールドもその一翼を担っている。
![]() | ||
| 上:A B |
各尖岬の浜堤列の高度 それに対応する海水準の変化 | |
| 下: | 分岐砂嘴の形成過程の模式図 | |
| 図10 野付崎の海水準変化に基づく発達模式図 (岡崎 1989) | ||
少し長くなるが、次の引用は、湿原のもつ役割や重要性をよくいい表わしている。
「本当に生態系を保護する気なら、何の変哲もない土地にまで目を向けねばならない。
珍しい風景があるでもなく、希少種が絶滅に瀕しているわけでもない湿原や森林こそ問題なのだ……。
ではなぜ、湿地は生態系の維持に欠かせないのか。
まず生物をはぐくむ力が抜群だし、水から汚染物質を除去する天然フィルターの役割も果たしている。
湿地から生まれる生命は、カタツムリや甲虫、植物のアシなど、ほとんど退屈なものだ。
世間の関心は、コンドルやハイイログマなど魅力ある動物に向きがちだが、本当に必要なのは、自然界全体における生命の多様性の保存なのである。
大地は、つぎつぎと舗装されてゆく。
だからこそありきたりの湿地が大切になる。
そこではいまも活発に進化が行われていて、遺伝子の保存に最も適した場所だからだ。
地球全体からみれば、どの種が絶滅しようと大した問題ではない。
重要なのは、さまざまな種がつねにそろっていて、多様な遺伝形質が蓄えられていること。
そして、それらが環境のいかなる変化にも対応できることである。
遺伝子工学を手にした人間が、環境の変動(おそらく自ら作りだしたものだが)に対処するため名もない生物のDNAを拝借したりしないと誰に言えるだろう。
カビからペニシリンが見つかるなど誰も予想しなかったではないか。……」
(ニューズウイーク日本語版 '89.9.21 P74)
このように湿原は、花々が咲き乱れるというような華やかさには乏しい。
その景観は、単調にみえるがむしろ原生的自然植生が豊富なことを特徴としている。
そして広葉落葉樹林とはまた違った生物との、甚大なかかわり合いをもっている。
湿原は、汚染や乾燥に弱いことはよく知られている。
だからそういった傾向が懸念される場合、事前に前兆を把握して対策を講じなければならない。
乾燥についてであるが、その乾燥化の傾向を判別するひとつの有効な方法として樹木の生育状況の観察があると思う。
その指標樹種としてハルニレ、ヤチダモ、ヤチハンノキ等があげられる。
特に後二者が重要であろう。
これらの樹木の生育は、環境とくに土壌水分の多寡に大きく左右される。
即ち湿原のただ中では、ヤチハンノキは矮化した形でのみ存在する。
仮に乾燥化がはじまると、あるいは現在の湿原のすぐ周縁といっても条件は同じであるが、ヤチハンノキの生育は速進される。
他方ヤチダモは、ヤチハンノキよりも、土壌がさらに安定したところでないと育たない。
ハルニレについてもヤチダモとほぼ同じことが言える。
湿原のただ中のヤチハンノキは別として、ヤチハンノキ、ヤチダモ、ハルニレなどの、上述のような関係は、たとえば札幌扇状地についても同様にしかも美事に言えるのである。
そこで具体的には、必要と思われる場所で、ある区画に限定して上記3樹種の生育状況を詳細に定期的に測定して、乾燥化への情報を探ることができよう。
さらに乾燥化を抑える対策のひとつとして地下水の利用も考えられる。
さきに地質の項目で、野付崎の先端に近い竜神崎でのボーリングについて述べた。
このボーリングでの水の採取は、ボーリング柱状図から判断ずれば戸春別層の下底、すなわち深さ凡そ30mまでの、割合に浅層の地下水を利用している。
恐らくこの場所と大差のない深度のところで、フィールド付近でも地下水の利用が可能と思う。
このボーリングは探さ140mで掘りどめているが、上記の水層以外には少なくとも探さ140mまでは、目ぼしい地下水層のないことを示しているとみてよい。
自然を、時の流れの中でみる場合、それが成住壊空という万物流転の大法則に厳然として貫かれていることを想うのである。
