環境保護で世界的に注目される
「アマゾン自然環境研究センター」
アマゾン一の景勝の地に設置された研究センターを訪れて
山本英夫
やまもと・ひでお(創価大学自然環境研究センター長)
1943年東京都生まれ。67年東京大学工学部卒業、76年同大学院博士課程修了。
東京大学生産技術研究所助教授を経て、創価大学工学部教授。創価大学工学部長。工学博士。
<潮 2005年9月号> より引用(写真を含む)

地球環境保全の一大拠点
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ペルーの山脈から大西洋に注ぐアマゾンは全長約6500km。河口から約1600kmの地点で、コロンビア高原から流れてくる黒色のネグロ川と、アンデスから流れてくる黄土色のソリモンエス川とが合流し大アマゾンとなる。合流した黒い川(ネグロ川)と白い川(ソリモンエス川)はすぐに混ざり合わず、白と黒に分かれたまま約20kmを悠然と流れる。「ソリモンエスの奇観」だ。この合流地点にあるのが、ブラジル・アマゾナス州の州都マナウスである。
私は、2000年7月と04年7月にマナウスを訪れた。創価大学自然環境研究センター長として、マナウスにあるブラジルSGIの「アマゾン自然環境研究センター」および併設の「創価大学自然環境研究センターアマゾン研究フィールド」での熱帯雨林保全の取り組みを視察するためである。
日本からマナウスヘは、ロサンゼルス、シカゴ、ニューヨークなどを経由し、ブラジルのサンパウロかリオデジャネイロに降り立ち、国内線でマナウスヘ向かうのが一般的な経路である。日本からサンパウロまでは、平均約26時間。サンパウロからマナウスまでは約4時間半。30時間以上の長旅になる。
サンパウロからジェット機に乗り、しばらくすると延々と茶色と緑の大地が続く。アマゾンが近づくと大地はまさに一面の緑。とにかく広大な森林というのが第一印象だった。地図でもその広大さは分かるし、テレビでもその大自然が放送される。しかし実際に見ると想像を遥かに超えていた。創価大学自然環境研究センターがもつ北海道の別海の研究フィールドを視察するたびに北海道の広大さに感嘆したが、アマゾンは北海道の比ではなかった。日本にいて想像できる大きさではない。
マナウスは人口150万人規模の都市である。ポルトガルが支配した当初から栄えていた古い街で、一時期はゴムの産地として栄えた。現在も、当時建築されたオペラハウスなどが残っている。ゴム景気の衰退でマナウスは衰退したこともあったが、今はアマゾン地域の貿易の拠点として栄えている。
アマゾン流域の場合、物資は船で運ぶため、港はよく整備されている。河口付近になると、河幅は干潮時で200km、満潮時では最大400km。雨期が重なれば450kmにもなる。400kmを日本でたとえれば、東京〜大阪間の距離に当たる。一万トン級の船も入って来られるほどの深さがある。
このマナウス近郊に、アマゾン自然環境研究センター、創価大学自然環境研究センターアマゾン研究フィールドはある。同センターはアマゾン沿いにあり、ソリモンエスの奇観が一望できるアマゾン一の景勝の地に建設されている。同センターは、いまや地球環境保全の一大拠点として大きな注目を集めつつある。
アマゾンは、希少な動植物が残る「生命の宝庫」であり、その大森林は「地球の肺」と言われている。だが近年、アマゾン流域の熱帯雨林は急激に失われている。年間に東京都の面積の約12倍もの森林が破壊されているのだ。
マナウスに向かうジェット機からも、緑の所々に茶色の部分があることが分かる。州によっては、森林伐採の規制が厳しくないところがあり、畑に活用するために伐採されてしまうことがある。
センター設置の先見性
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ブラジルにおける本学の研究活動の淵源は1990年。本学の創立者でSGI(創価学会インタナショナル)会長である池田大作先生は、ブラジルSGI(以下、BSGI)に対して環境問題の重大性を指摘。BSGIは創価大学の協力を得て環境問題に積極的に取り組み、社会貢献してはどうかと提案された。これを受け同年3月、BSGIと本学が提携してサンパウロ郊外に「創価大学自然環境研究センター」を開設、11月に初のフィールド調査を実施。92年7月にはマナウスにBSGI自然環境センターを設置。本学の自然環境研究センターのアマゾン研究フィールドも同時に設置された。
リオデジャネイロで、地球環境サミット(環境と開発に関する国際連合会議)が開催されたのが92年。通
称「リオ・サミツト」は、ほぼすべての国連加盟国の代表が参加した国連史上最大規模の会議である。採択されたアジェンダ21には持続可能な開発を実現させるための行動計画を定め、地球環境の保全とともに、貧困や人口などの地球的問題群への取り組みが記されている。
リオ・サミットに合わせるように設置された本学の自然環境研究センターは、地球環境保全のためのシンボリツクな存在として注目されるようになった。池田先生の環境間題に対する危倶の深さと行動、先見性があったからこそのことである。
一方で、創立者の提案に呼応する学生も出てきた。本学の18期生・田中晃君は、サンパウロ大学の交換留学生時代に創立者の提案に感銘を受け、マナウスに魅せられた。日本に帰国したのち、渡航資金を貯め、研究活動のために再びブラジルへ。現在は創価大学の嘱託職員としてアマゾン研究フィールドで研究を続けている。同じく18期生・佐藤伸二郎君も、創立者の提案に応じた一人だ。本学卒業後、筑波大学で環境科学の修士号を取得し、アマゾン国立研究所で研究を行った後、フロリダ大学農学部で土壌科学博士号を取得。現在はコーネル大学の博士研究員で、アマゾン研究フィールドの客員研究員として活躍している。
アマゾン研究フィールドの主な研究の一つは、「森林の再生」。伐採された森林をいかに再生させるかが焦点となっている。93年に開始した「森林再生研究プロジェクト」では、マナウスの約60haの土地を利用し「エンリケセメント植林法」の実験を行っている。森林は一度伐採すると雨期に土壌の栄養分が流されてしまい、土壌が貧しくなり、その後に再生した二次林も貧弱なものとなり、果てには再生しなくなってしまう。その二次林、三次林をいかに再生するかが問題である。
エンリケセメント植林法は、森林を破壊せずに林内に有用木を混植して森林を順次豊かにしていく植林法である。生態系を崩さないよう、10m間隔で1、2m幅だけ伐採し、有用木の苗を植える。陽光は赤道直下なので、東西の方向に伐採すれぱ常に照らされる。成長には20年程度かかるが、ある程度成長したら、また別の場所に有用木を植えていく。植林を始めてすでに12年が経過しているので、そろそろ研究成果としてまとめる予定である。また、2回目の植林も開始する予定だ。
現地住民の生活に配慮したうえで自然環境の回復は可能か、との研究テーマもある。96年、マナウスから300km南下したノーボ・アリプアナン市から提供された約1万haの原生林を利用し「アグロ・フォレスタル植林法」による実験を開始した。この植林法は、初めに伐採した材木で収入を得、伐採した後に農作物と有用木の苗を同時に植えるという混植法である。現地住民の生活に配慮した方法で、この実験は03年に終了した。この植林法は二次林、三次林を対象とすべきものであり、原生林は生態系保全の観点から伐採すべきではないと判断したからである。今後、この原生林は、熱帯雨林の保護と生態調査の研究に利用されることになっている。
現地住民の生活と自然環境の保全との両立は深刻な問題である。昨年ブラジルを訪間した際、本学自然環境研究センターの名誉所長を務めていただいている、プラジルの詩人であり人権活動家のチアコ・デ・メロ氏と語り合った。
その際、氏は先進諸国に対し「口ではアマゾン、アマゾンと言うが、本当にアマゾンのことを考えているのか」と怒りを込めて語っていた。
本当の意味でアマゾンを「人類の遺産」として利用するためには「アマゾンの知恵」に学ぶべきであるのに、先進諸国はこれをも独占しようとしている。たとえばアマゾンにしかない二百数十種類の薬草である。アマゾンが西洋文明と接触した500年前よりもはるか以前から、人々は生薬として利用し、自然と共生してきた。「インディオの知恵」だ。ところがすでに百数十種のDNAが解析され特許化されてしまっている。氏は、全人類に残すべき「アマゾンの知恵」が一部の資本家に独占されつつあると危機感を強めていた。
豊かな国の環境保護団体は、熱帯雨林の伐採に反対する。これ自体は正しい。しかし現地住民は貧しく、食べるために伐採し農作物を作ろうとする。それが焼き畑や森林伐採につながっている。これは対岸の火事ではない。日本においても、湿原を干拓し農地を作るのか、自然環境を保全するのかで、現地住民と関係団体が対立することがある。自然環境の保全、生態系の保護と、人間の現実生活との間には大きな葛藤がある。
このジレンマを解消する方策として非常に示唆に富むのが、アマゾン自然環境センター設置の提案者である池田先生が、02年にヨハネスブルクで開かれた地球環境サミットに寄せた提言である。
持続可能な未来へ 教育の重要性
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「地球革命への挑戦──持続可能な未来のための教育」と題されたこの提言で、池田先生は、「一人ひとりが環境問題を“自分自身の問題”として捉え、共通の未来のために、心を合わせて努力していく──その原動力となるのは、何といっても『教育』です」と語られている。
いくら環境を保全する技術が発達しても、いくら政治の上で環境保全を決定しても、いくら環境保全のためには経済的に援助すると取り決めても、恵まれない誰かが必ず自然破壊を行ってしまう──これを解決するためには、まず自然環境を守らなければ、やがては白らを滅ぼすことになることを深く生命に刻まなければならない。それを行うのが教育である。美しいものを美しいと感じる心、破壌に心を痛め、同苦する心──これは教育でしか培うことができない。まさに卓見である。
アマゾン研究フィールドでは、提言に沿い、地元の小中学生をセンターに招待し、自然環境の勉強に協力している。毎週のように訪れる彼らは、素晴らしい自然に触れることで、環境を守り抜く人材として成長していくだろう。植林は100年以上先を見据えて行うため、目に見える成果はなかなか出ない。小中学生への教育も、芽が出るのは数十年先だろう。BSGIや本学がやってきたことは、地味な作業だが、周囲からの評価は年々高まっている。
95年には、BSGIのアマゾン自然環境研究センターが、ブラジル政府より「自然遺産」私有保護林に決定され、地域住民からも信頼されている。02年にはアメリカCNNテレビが、研究センターの活動を全世界に放映するなど、世界からも注目されている。センターの研究者は、持続可能な成長を実現するために、大切なことを行っているのだという自覚をますます深めている。
このように、アマゾン自然環境研究センターは、地球の環境保全と人間生活とのジレンマを克服しつつ、未来を開きゆく研究活動に精力的に取り組んでいる。同センターの重要性は、ますます増していくだろう。
本学工学部は、一昨年4月に「環境共生工学科」を新設した。これまでの環境関連の学科といえば、理学部・農学部系のように軸足が自然環境に偏っていたり、工学部・医学部系のように人間活動に軸足を置いたものがほとんどであった。その反省から、環境共生工学科は、人間も地球生命の一部であるという生命観に基づき、豊かな人間の営みが決して自然環境を破壊することなく、人間が地球生態系と共生していくための教育・研究を目指している。
本学の教育理念である創価教育学大系を著した牧口常三郎先生は『人生地理学』で、自然と人類の生活との関係、自然との共生を説いた。本学の学生は、牧口先生の思想を学びながら、人間の生命が地球生命の一部であることを感じとることができる。そのうえで、他の大学や研究機関に比肩する研究や技術を発展させていくことが本学の使命である。現在でも本学は、排ガス処理、リサイクル処理、環境汚染の除去などに関して日本トップレベルの技術を有している。その技術を地球環境の保全に生かすべく、今後も研究に励んでいきたいと思っている。
