霧島の自然

初島 住彦

初島

心潤す明るい森林と美しい火口湖

動・植物や野鳥、昆虫の絶好の生息地


<聖教新聞 1990年5月8日 文化欄> より引用


Bar


小規模の火山群が密集

 霧島山は明るい森林と美しい火口湖、豊富な山麓の温泉で有名である。 霧島山とは鹿児島県と宮崎県の境にあり、北西から南東に長い30×20kmの楕円形の地域に多数の小規模の火山が密集した火山群の総称である。
 昭和9年日本に国立公園が制定されたとき、国立公園に指定されたもので、大小23の山峯、完全な火口15、火口湖8を数え専らコニーデ及びトロイデの群生で主として第3紀において最も旺盛な火山活動期にあったもののようである。
 霧島の名の由来は遠望すると霧の海に浮かぶ島のように見えることによるという。 各峯はいずれも1,000m以上の高さを保ち、なかでも韓國(からくに)岳(1,699m)、高千穂峯(1,574m)が最も高く、各火山の頂には比較的大きな火口湖があり、御池、大浪池などの火口には常時碧水(へきすい)を湛えている。
 霧島火山の活動で有史以来記録の明らかなものは、大平14年(142年)に始まり、明治36年まで36回の噴火をなしている。 その内最後の熔岩流出の疑いのあるものは享保年間(約270年前)のものである。 霧島山は前述のとおり宮崎、鹿児島両県にまたがり、その境界は連山の山頂部となっている。 宮崎県側と鹿児島県側では色々の点で異なっている。
 すなわち宮崎県側は海抜1,200m位のえびの高原には温泉が見られるが、山麓には全然温泉はない。 しかるに鹿児島県側には林田、硫黄谷、明礬(みょうばん)、栄の尾、丸尾、栗野岳、湯之野などの温泉群が海抜800m附近にある。 創価大学付属自然植物園の開設が予定されている九州研修道場(霧島フィールド)。 昨年10月、同植物園準備委員会による第1回の植生調査が行われたが、この辺りは大浪池の西斜面海抜700〜950m附近にあり、海抜750m附近に豊富な温泉が湧出している。 宮崎県側には山麓に御池、小池などの池があるが鹿児島県側の山麓にはない。 また宮崎県側には立派な原生林がないが、鹿児島県側には樹齢300年以上にも達するモミ、ツガ、アカマツ混交の広大な美林(新床国有林)があり、直径1mにも達する巨木が林立している。


カエデ類の多い落葉樹林

 霧島山は海岸から遠くはなれていることや、山が高いことなどから比較的気温が低く、夏は涼しい。 年雨量は3,800mmと多い。 ふもとには暖帯の常緑広葉樹が多く、海抜700mの丸尾附近ではイスノキ、イタジイ、タブノキ、ツバキ、カシ類が多く、700m以上になるとモミ、ツガ、アカマツの混交林があり、伐採跡地や熔岩原にはアカマツの純林が見られ、高千穂峯の裸出した斜面には上昇気流でアカマツの種子が吹き上げられるため麓から上方に向かってアカマツが侵入している状態がよく見られる。
 陽性のアカマツは霧島山では陰性のモミ、ツガと混生する場合が多いので早くから下枝が枯れ、枝下の長い実に立派な幹となるのである。 かかるアカマツは霧島赤松の名で知られ、値段も普通のアカマツ材より大分高い由である。 約1,300m以上になると温帯の落葉広葉樹が多くなるが、霧島山ではブナは少なくブナ林と称する立派なものは見られない。
 この落葉樹林にはカエデ類が多く秋の紅葉は美しい。 またこの附近、特に新燃岳(しんもえだけ)頂上附近にはミヤマキリシマが多く、春6月頃は紫紅色の花で全山をうずめ実に見事である。 高い山の頂上附近にはサイゴクミツバツツジが多く、春の開花期には美しく、草木ではイワカガミ、マイズルソウ、ツルキンバイなどが多く可愛い花をつける。
 霧島山の特産の植物としてはノカイドウ、キリシマミズキ、キリシマタヌキノショクダイがある。 ノカイドウはリンゴの仲間で上記のえびの高原の宮崎県と鹿児島県の境を流れる小川に沿うて自生し、大正12年に国の天然記念物に指定された。
 キリシマミズキは霧島山に広く分布する高さ2〜4mの落葉低木で早春葉に先立って淡黄色の可愛い花をつける。 キリシマタヌキノショクダイは高さ5cm位の腐生植物で淡黄色を呈し葉はない。 熱帯性の植物で昭和47年霧島山で発見されたものである。
 動物ではシカ(キュウシュウシカ)がいる。 本種は乱獲の結果、一時は減少していたが、国立公園設定後は漸次増加し最近では山を歩くとよく見かけるようになった。 リスの仲間のヤマネもいるが、ふしぎなことに猿はいない。 ノウサギ、イノシシは多く、イノシシは栗野岳方面に多い。
 野鳥は種類が多く、コシジロヤマドリ、ツツドリ、アカショウビン、ブッポウソウも知られている。 昆虫は種類が多く、分布南限種が多数記録されている。 栗野岳にはカシワ林があり、九州唯一のウスイロオナガシジミの産地となっている。


原生林は甲虫類のすみか

 またキリシマミドリシジミは最初霧島山で発見された蝶であるが、最近は神奈川県以南に広く知られている。 北方系のオオルリボシヤンマは高原の火口湖に生息する大形のヤンマであるが、西日本では霧島山の大浪池と大幡池だけに知られている。
 原生林の多い霧島山は甲虫類の絶好のすみ家となっているので甲虫の種類は多い。 高千穂峯の頂上は草も生えていない岩だらけの狭い所であるが、昔から昆虫が集まる場所として有名である。 すなわち上昇気流に乗って後から後からと飛来した昆虫(特に甲虫類が多い)が岩陰に一杯になる。
 これらの昆虫は大部分山麓の原生林にいるもので上空に飛び出したはずみに上昇気流で山腹沿いに上へ上へと運ばれたものである。 最も多く集まるのは風があまりなく上昇気流の強い夏の日であるといわれている。 霧島を訪れるのは春の新緑の候、6月上旬のミヤマキリシマの開花時、秋の紅葉の季節がよい。




はつしま・すみひこ

 1906年長崎県生まれ。九州大学農学部卒。農学博士。 鹿児島大教授、琉球大教授などを歴任。現在、鹿児島大名誉教授。 南方植物の研究では第一人者。著書に『琉球植物誌』『日本の樹木』『琉球の植物』など。


Bar

Home Back