生態系研究への価値あるフィールド

創価大学付属自然植物園・創価学園付属野鳥研究所を視察して

調査風景

北海道大学大学院環境科学科長・教授
伊藤 浩司


<聖教新聞 1988年7月25日 北海道版> より引用

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シマリス
動物の写真は、委嘱研究員・福原幸昭氏 撮影

 創価大学付属自然植物園と創価学園付属野鳥研究所の開設が予定されている創価学会北海道研修道場内の植生を見る機会に恵まれた。当日はあいにくの小雨で、筆者もまた他の所用での帰途であったので、ほんの短時間かいまみたにすぎなかったが、この自然は将来にわたって継承されるべき偉大な自然資源であるというのが率直な印象であり、筆者の結論である。
 この植生はかつて道東の低地や緩やかな丘陵地を覆っていた湿原や森林の名残(なごり)であり、人々がいまだ自然資源の保存ということに深く思いいたらず、自然資源を気ままに利用していた時代からの幸運な遺産である。それは所々に見られる年を経た太い樹幹の名残をとどめているカシワやミズナラや、ここではいまだ見出されていないけれど、周辺の湿原に見られる、稀産種ヤチカンバの存在などが物語っている。
 寒冷な氷河期からの湿原の歴史、氷河から解き放されて気候が回復してきて以来の森林の歴史が、この地方の湿原や森林植生、そして自然の貴重さを裏付けている。
 広大な地域の大部分は、湿原と自然林である。湿原はサギスゲやヤチヤナギ、そして幾種類かのスゲ類が優占する谷湿原で、川の流れに沿ってはヨシが生じ、低層湿原から中層湿原への景観推移が見られる。恐らくもっと奥へ進めばミズゴケも生じ、所々、高層化しつつあるかも知れない。
餌台  自然林は典型的な二次性の冷温帯落葉広葉樹林で、湿原周辺から湿原に接する丘陵斜面にかけてはハンノキが、斜面上部ではミズナラが優占しているが、途中ハンノキとミズナラの混生も観察される。
 丘陵地ではハンノキに代わってヤマハンノキが目立ち、カシワやミズナラが優占するほか、ハリギリやヒロハノキハダなどが混じってくる。これらの樹林はもちろん、ふるい原生林の名残で、たびたびの山火や戦前の薪炭材として利用されて原生林の面影を次第に失ってきた。戦後は防風保安林として維持されてきて、次第に森林生態系として再び回復しつつある。二次性とはいえ道東の森林植生を代表する諸々の特緻を備えている。
 (「同志の碑」南側の)開けた明るい所には、エゾゼンテイカ(エゾカンゾウ)が花盛りであるが、その下には、市販のスズランの葉の倍以上の大きさもある自生のスズランがのぞかれる。林床はエゾミヤコザサが一面に繁茂し、そのササを分ける様にしてふるい轍(わだち)の跡がつづいていて格好の散策路となる。
 入り□から研修道場へ通じる大きな通りの左右には人工の手が加わっているが、均整のとれたトドマツの植え込みがつづいており、自然林の無雑作とは一味違った人工的なものの力強さや美しさの印象をうける。
カワセミ  研修道場にもどると、野鳥と植物のアルバムが置いてあった。管理者のお話によると、ここには随分と野鳥が集まるらしく、ちょうど庭の餌台にはカワラヒワがやってきて盛んに餌をついばんでいた。アルバムの中ではカワセミの存在が何といっても珍しかった。
 季節はもう夏で春の植物はすっかり姿を消しているが、アルバムの中のエゾエンゴサクはきっと大地を一面に紫紺の色に染めて、春を告げていた事であろう。
 林の中はあくまでも静寂そのもので、湿った空気も大変味のあるものと感じられた。この森林や湿原の生態系を研究することは、未知の宝を掘り起こすに似た興味と興奮を覚えるが、それにもまして鳥の囀(さえず)りや風の囁(ささや)きに耳を傾けながら、しっかりと道東の大地を踏みつつ散策の小径(こみち)を逍遙(しょうよう)するときは、都会の喧騒の中では得られない創造的な思索の喜びを味わうことができるであろう。


           調査風景


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