伊藤

創価大学・創価学園「第1回植生・野鳥総合調査」

専門家に聞く(2)

北海道大学大学院環境科学科長・教授 伊藤 浩司氏


自然教育・研究に最適の環境


<聖教新聞 1988年9月23日 北海道版> より引用



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エゾシカ
動物の写真は、委嘱研究員・福原幸昭氏 撮影

−−今回の総合調査で明確になった北海道研修道場内の植生の概観について説明をお願いします。

伊藤 まず調査地の植生を大別すると (1) 湿原 (2) 森林、に大区分されます。
 (1)は地形的には谷湿原で、発達の段階からは低層湿原から中層湿原への途中にあたります。 本当の意味での高層湿原はみられないようですね。
 湿原は北側に広がる広大な湿原と丘陵地間の谷間に発達する小湿原に分かれます。 当幌川沿いにはヤナギ類、ヤチダモのような木本にヨシ、ミズバショウ、ハンゴンソウのような草本をともなう河畔林がうっそうと生い茂っています。 この河畔林と丘陵地の間を埋めるように湿原植生が展開しています。

−−湿原はどのような特徴がみられましたか。

伊藤 特徴の一つはヤチボウズ群の発達です。 ヤチボウズは北海道では釧路湿原に最も普通に見られる、ヒラギシスゲ、カブスゲなどのスゲがつくる隆起性の株で、その生成機構についてはいまだ一定の説がなく、今後の研究課題として興味ある存在です。
 ヤチボウズの上にはノリウツギ、カンバ類が根をおろして生活しているほか、時にヤチヤナギ、ツルコケモモ、タチギボシ、コガネギク、ヒメシダなどが生じています。 低層湿原にはヨシ、ミズバショウなどが普通ですが、ここではハンノキ−ミズバショウ群落の発展が顕著です。

エゾユキウサギ −−森林の植生についてはいかがでしょうか。

伊藤 森林は林床がエゾミヤコザサでおおわれているので、ササ以外に見られる植物は非常に少なく、歩いた限りでは、20種類位のものでした。 ここの森林はミズナラ−エゾミヤコザサ群落で代表されますが、西側の丘陵地に生えている森林はカシワ、ミズナラが中心になっており、その他にハルニレやシナノキ、エゾイタヤなどを交える広葉樹混生林です。 これは湿原の中島のミズナラ優占群落と多少趣を異にしています。

−−国道に沿った東側の地域の植生はどうでしょうか。

伊藤 国道に沿った地域内の小道の両側が最も植物が豊富なところといえましょう。 ここでは小道が開けているので明るい環境が生まれ、ササの進出を抑えています。 種々の野草や人里植物の格好の生育地となっています。
 中性花が並外れて大きく、しかもまぶしいほど純白なノリウツギをはじめ、黄色いコウゾリナやフタバハギ、エゾヤマハギの紅紫色、エゾトリカブト、ツリガネニンジンの青紫色などの彩りがこの道の散策を楽しいものにしてくれてます。 路傍にみかけたネバリタデも珍しい存在です。

シマリス −−植生の特徴について、まとめをお願いします。

伊藤 第一に北方の自然植生の特徴や状態が比較的によく保持されており、第二に殊に湿原の発達の初期の形態がヤチボウズとともに詳細にみることができるということです。
 いわゆる希少価値という点では、絶対的に希少とか貴重であるとか評価される自然ということでなく、周辺からしだいに開発されつつある別海地方の現状からみると、この自然は次の世代にとっては貴重な財産であるということができます。

−−学術的価値については、いかがでしょうか。

伊藤 現在の自然環境の仕組みがどのようになっているか、それが将来、環境条件の変化に応じてどのように変わるのか、あるいは自然植物園内や周辺の植生自体が変化するとそのまわりの環境がどうなるのかという生態学や自然教育の最も基本的な面での教育実習には最適の場ということができます。
 自然環境教育は森林や湿原に生活する鳥やその他の生物と植生との関係、湿原の水の流れや水の化学性などを通じて、生きている自然−生態系の姿をとらえるには最良の環境条件を備えているといえます。 それは一つに植生が比較的単純でありながら、まとまった北方植生の性格があまり乱されずに残っているからにほかなりません。


航空写真


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