


この春、創価学会北海道研修道場の別海フィールドに開設が予定されている創価大学付属自然植物園の植生調査に参加する機会を得たが、日本の中でもこのフィールドは大変貴重な自然環境だといえる。
私達は同フィールドの丘陵地(台地)と湿地帯のほぼ全域を踏破したのであるが、その様子について少し述べてみたい。
私達が降り立った釧路空港周辺は霧の深いところだが、釧路湿原の全景は実に素晴らしいものであった。
29,000haの広大な面積もさることながら、湿原に見られた無数の白い穂、それはおそらくサギスゲであろうが、それを見ると心洗われる思いがした。
さて、別海フィールドの湿原の特徴はヤチボウズ群(スゲ類による隆起性の株)がよく発達し、その上に、低木のノリウツギ、ヤチヤナギ、ツルコケモモ(以上木本)、タチギボウシ、サギスゲ、ナガボノシロワレモコウ(以上草本)等の草木が群生していることだ。
また浅い水中には直径12〜15mmの可憐な花を咲かせるコタヌキモやまた野の花とは思えない風情のあるヒオウギアヤメも所々に生育し、更にミズバショウの大群落も見られることだ。
湿地帯と丘陵地の中間に位置する漸移帯にはヤマドリゼンマイ、クサソテツ(高さ1.2〜2m)等の大群落も随所に見られたが、湿地帯を一歩離れると植生は一変する。
いわゆるミズナラ、カシワを中心とする落葉広葉樹林帯である。
エゾミヤコザサ等の下層植生の上にシラカンバ、ヤマハンノキ、ハルニレ、ヤチダモ、エゾイタヤ、ヒロハノキハダ等の上層植生がよく繁茂し、特に樹幹を白色に染めているシラカンバの美林には目を見張るものがある。
国道に沿った小径にはコウゾリナ、ツリガネニンジン、エゾカンゾウ、エゾスカシユリ等が多く見られ、散策路としては絶好の小径といえそうだ。
ところで私は鹿児島県に住み、「霧島フィールド」の調査に携わっているが、北海道の「別海フィールド」に来て、これほど多くの似た植物に出会ったのは、またとない経験であった。
その植物というのはサクラソウ、マイズルソウ、ヤマドリゼンマイ、ミズナラ、ミヤマザクラ等10余種である。
別海と霧島は約2,000kmの距離にあり、別海フィールドは海抜約10m、霧島フィールドは標高1,100〜1,200mと生息環境はまったく違うが、自然の織りなす、この類似性は実に興味深いものであり、別海と霧島の比較研究は、植物分類学上からいってもとても意義深いものと思う。
この別海は植物だけでなく、野鳥達の楽園でもある。
ミズナラの洞に親鳥が小鳥を呼び、巣立ちの劇的なシーンを観察できたが、この「別海フィールド」に隣接する野付半島はタンチョウ、エゾライチョウ等の生息地でもある。
現在、別海フィールドには約100種類の野鳥の生息が確認されているという。
ともあれ、別海の自然環境は次の世代に残すかけがえのない貴重な財産である。
このすぐれた自然を人と植物と野鳥達の触れ合いの場として大切に育み、情操教育の一環にしていきたいものだ。
すぎもと・まさる1929年鹿児島県生まれ。伊佐農林高校卒業。 植物と短歌研究所所長、大口短歌会会長。鹿児島県植物同好会員。 著書『大口の植物と詩と』『鹿児島県の植物図鑑』。
