INSTITUTE of NATURAL SCIENCE and EDUCATION in SOKA SCHOOL SYSTEM

野鳥・自然環境研究所報告

title.gif

第3巻第1号 (通巻第9号)

2003年5月16日 発行


EarthKAMで学ぶ「宇宙」と「地球」
〜「世界初」に挑んだ学園生たち〜

関西創価中学校  池田 勝利


Bar


  1. EarthKAM参加への経緯
  2.  2003年4月29日から5月3日(日本時間)にかけ、私たち関西創価学園は2000年2月の初参加より数えて連続8回目となるEarthKAMに参加しました。
     EarthKAMとは Earth Knowledge Acquired by Middle school students の略語で、宇宙や地球環境に対する子供たちの関心を高めることを目的として、NASA(アメリカ航空宇宙局)がおこなっている教育プログラムのひとつです。
     参加した子どもたちはインターネットで、このプログラムの教育分野を担当している米国カリフォルニア大学サンディエゴ校のウェブサイトにアクセスして、地図上に描かれた軌道を見ながら撮影したい場所を決定し、緯度・経度・スペースシャトル(またはISS=国際宇宙ステーション)が上空を通過する時刻・地点名・撮影したい理由などを専用のサイトに登録します。このようにして各学校から寄せられたデータは、NASAを経由してスペースシャトル(またはISS)に送られ、設定された時刻になるとデジタルカメラのシャッターが自動的に切られ、宇宙から撮影された写真が公開されるという仕組みになっています。

    概念図
    EarthKAM概念図(宇宙開発事業団のウェブサイトより転載)

     このプログラムはもともとアメリカ国内向けのものでしたが、2000年2月に毛利衛氏が2度目の宇宙飛行で搭乗したエンデバー号でも実施されたため、初めて日本の学校に参加枠が与えられました。
     1999年6月にNASDA(宇宙開発事業団)が窓口となってEarthKAMへの参加校を募集したところ、100校以上から問い合わせがあり、そのうち25校が英文による正式な申し込みをおこないました。
     そこから国内選考により5校に絞り込まれ、NASAによる最終選考を経て、関西創価学園を含む日本の代表4校が決定したのです。

     私たちはこの4年間に、スペースシャトルで1回、ISSで7回のEarthKAMに参加し、合計700枚近くの写真を撮影してきました。その中でも一番印象的なのは、メキシコのユカタン半島を撮影した写真です(実はこの写真が、私たちがEarthKAMで一番最初に撮影した写真でもあります)。
     青々としたカリブ海に、白いサンゴ礁と茶色の大地のコントラストが鮮やかで、「地球上にはこんな美しいところがあるのか」と感嘆させられました。
     2度目の宇宙飛行を終えた毛利氏は「地球環境の汚染が叫ばれていますが、地球にはまだこんなに美しい自然が残っていて、その回復に今ならまだ間に合うと思います」と話されています。私たちは、まさにその通りのことを目の当たりにしたのだ、という思いでした。

    概念図
    関西創価学園のEarthKAMファーストショット、ユカタン半島(メキシコ)

    藤が尾小学校
    交野市立藤が尾小学校での出張授業の一場面
     生徒たちによる作業は当初、撮影地点を決定する「企画グループ」、リアルタイムでホームページに写真を登録していく「コンピュータグループ」、また日本語でつくったページを英語に翻訳する「英語グループ」、校内に撮影した写真を中心に活動の成果をいち早く展示していく「展示グループ」と、希望者によるグループ分けをして進めました。
     その後、私たちの活動に興味を持って見学にこられた市民の方々への説明を担当する「レクチャーグループ」も誕生。このグループは地元・交野市の小・中学校に請われ、「EarthKAM出張授業」もおこないました。写真の説明だけでなく、「国際宇宙ステーションの中はどうなっていて、宇宙飛行士はどのように過ごしているか」なども自分たちで調べて説明したせいか、この「出張授業」を受けた小学生の中には「将来、宇宙飛行士になりたい」という感想を寄せてくれた児童もいました。
     学園生たちがEarthKAMを通して得た感動を、外部に向けて発信していくこの活動は、毛利氏からも高い評価をいただきました。これは「多くの人々に宇宙へ興味を持ってもらうことによって、21世紀の地球をより良いものにしていきたい」という毛利氏の思いと通じるところが多かったからだと思います。


  3. EarthKAMを使った世界初の実験
  4.  私たちはまた、2000年の初参加の際「EarthKAMの機会を生かして、独自の実験ができないだろうか」と考えました。
     私が「ジャンボジェットの3分の1くらいの大きさしかないスペースシャトルは、250kmもの上空を飛んでいるのに地上から見ることができる。それは、強い太陽光を反射しているからだ」と話したとき、生徒のひとりが「じゃあ、その反対ができないでしょうか」と問題提起をしてくれました。
     つまり、地上に鏡を置いて太陽の光を反射させれば、そこだけまわりの地面よりも明るく写るはずだから、スペースシャトルからでも写せるのではないか、というのです。
     またこのときのスペースシャトルのフライトは、地球表面の3次元立体地図の作製が主目的であり、これまでで最も低い高度(250km)を、しかも一定の姿勢を保ったまま飛行するという、まさに私たちの反射実験には願ってもないチャンスでもありました。
     そこで物理担当の萩原悟嗣教諭を中心に、学園内で反射実験をやろうということになりました。後に毛利氏から聞いたところによると、これはEarthKAMを使ったものとしては世界初の実験だということでした。
     私たちは当初、全校生徒(約1800人)が手鏡を持って校庭に出て、スペースシャトルの方向へ太陽光を反射させるように小刻みに動かせば、そのうちのいくつかの反射光を捉えることができるのではないか、ぐらいに考えていました。
    反射実験
    「毛利さんに届け!」庵治町での反射実験のようす
     ところが、打ち上げ後修正されたスペースシャトルの軌道データを見ると、学校周辺は撮影範囲に入らないことが判明。そこで私たちは、香川県にある創価学園付属野鳥・自然環境研究所の庵治フィールドなら写真のほぼ中央に写せることを割り出し、急遽、遠征隊を編成して派遣することにしたのです。
     生徒たちは、スペースシャトルが再接近するときの時刻と方向を求め、その瞬間に太陽がどの方向にあり、鏡をどの向きに設置すればよいのかを、数学の教員に食い下がりながら、大学レベルの数学を駆使して割り出しました。また22名という遠征隊の人数から、少ない鏡の数で確実に反射光を写し込むため、必要な鏡の大きさを計算していきました。そして、思考錯誤のすえ製作した畳一枚くらいの大きさのベニヤ板に、アルミホイルを貼った特製の鏡10枚を、写真の解像度である40m間隔でS字型に配置し、角度で1度以下の精度で正しくセットするというところまで準備を終えて、生徒たちはワクワクしながら「その時」を待ちました。またこの実験には、地元からの強い要請があり、町立庵治中学校の2年生の代表も参加していました。
    児島湾
    50km離れた岡山県児島湾周辺が撮影されてしまった
     この時点で私たちは、EarthKAMの写真は1秒のズレもなく撮影されるものと信じ込んでいました。
     しかし実験当日、なんと、カメラを制御しているコンピュータ(市販のラップトップ型)の内蔵時計が、およそ7秒ずれていたため、私たちの上空から50km近く過ぎた地点が撮影されてしまい、実験の成否を確認することすらできなかったのです。
     世界初の挑戦に胸を躍らせていた生徒たちが、言葉にならないくらい落胆したことはいうまでもありません。が、そんな中でも、卒業を間近に控えた高校3年生のメンバーが「また次がある。次は絶対に成功させてくれよ」と後輩たちを励ましている姿を見たときは、「さすが学園生だな」と胸が熱くなりました。

  5. 自分たちの言葉で平和のメッセージを
  6. ISS
    ISS完成予想図(生徒作品)
     「世界初」の実験が残念な結果に終わった直後、宇宙開発事業団より、スペースシャトルを使ったEarthKAMプログラムはこれが最後で、あとはISS(国際宇宙ステーション)に引き継がれるというNASAの計画が発表されました。この新しいISS EarthKAMプログラムは、当面は、アメリカ国内向けのプログラムとしてスタートするが、ISS計画に日本も参加していることから、将来的には日本の学校にも参加が認められるのではないか、とのことでした。(2003年5月現在、日本からは関西創価学園を含む2校が参加中)
     そこで私たちは、スペースシャトルのミッションで行った実験の顛末や、生徒たちの思い、活動内容を添えて、「ぜひ、ISS EarthKAMプログラムにも参加したい」とのメールをEarthKAM事務局に送りました。すると、「ISS EarthKAMはまだ実験段階であり、新たな提案を必要としている。アクティブに参加してくれる関西創価学園には、我々のパートナーとして今後もぜひ参加を続けていただきたい」という旨の返信が届いたのです。生徒たちの作った英語版のウェブサイトを見て私たちの活動を知り、熱心な学校だと評価してくれていたようでした。

     私たちがこの決定通知を受け取ったのは2001年の9月11日(日本時間)の朝でした。そして、その夜(アメリカ東部時間で9月11日朝)に、あの忌まわしい同時多発テロ事件が起きたのです。
     アメリカ国内の大変な混乱の中で、果たしてEarthKAMは実施されるのかという不安がありましたが、ミッションは予定通り行われることになりました。そのとき、「絶望的な暗いニュースであふれている今こそ、子どもたちに夢や希望を与えるプログラムを、何としてもやり遂げるのだ」というNASAの担当者たちの熱い思いをひしひしと感じました。

    国境付近
    「国境など、どこにも見えない!」
    (アメリカ/メキシコ国境付近)
     マスコミを通じて悲惨なニュースを聞くにつけ、生徒たちの間で「世界で大きな事件が起きたとき、また地球の平和が脅かされているときに、自分たちは受け身の立場でしかいられないのだろうか――」ということが話題となり、EarthKAMプロジェクトチームのメンバーからもさまざまな意見が出ました。
     「宇宙からの写真で見た地球には、国境などどこにもなかった。この実感を大切にして、今度の国際宇宙ステーションから撮影した写真を使い、自分たちの言葉で全世界に向けて平和のメッセージを発信しよう!」と生徒たちは真剣に話し合い、結論を出しました。その強い思いを込めて、国際宇宙ステーションを利用した世界初のISS EarthKAMプログラムに、私たちは「平和の尊重」「人類の団結」「自然保護の訴え」との3つのコンセプトで臨むことを決めたのです。

     また、ミッション終了後には、撮影した写真を編集し、平和を希求する私たちのメッセージを15分間にまとめたビデオも制作しました。このVTRは、これまでに32会場で上映し、延べ8100人を超える方々に見ていただくことができました。
     ご覧になった方々からの反響は大きく、写真の美しさに対しての驚きだけでなく、次々と新しいことにチャレンジしていく学園生たちの、生き生きとした姿への感動の声が寄せられています。


  7. 「環境教育」としてのEarthKAM
  8.  EarthKAMプロジェクトに参加した生徒たちは、「写真を撮るのが楽しい」というだけでなく、そこから「平和」や「地球環境」など、さまざまな問題にまで視野が広がり、それを自分たちの問題としてとらえ始めました。そして、自分たちから行動の「波」を起こそうとしています。この生徒たちの柔軟な発想力と、活動を通じて養われてきた強い使命感に、私自身も多くのことを学ぶことができました。

     5回目の参加となった2002年11月のミッションでは、「地球環境サミット」に向けて創立者・池田先生が発表された「環境提言」をメンバー全員で学びあいました。創立者は提言の中で「まず地球の環境について知ることが大事だ。それから自分たちに何ができるかを考え、身近なところから行動をおこしていくことが大切である」と述べられています。そして「知ることが大事」ということに関連して、私たち関西創価学園のEarthKAMプロジェクトを紹介してくださったのです。
     メンバーたちの間から「地球の環境問題の現状を知ろう」という声が大きくなり、これが5回目のミッションのテーマとなりました。そして、温暖化による氷河消失の問題、砂漠化や森林破壊の現状、サンゴ礁と海洋汚染の関係――などの観点から撮影場所を決めていきました。

    アルゼンチン
    氷河の消長は地球温暖化のバロメーター
    (アルゼンチン)
    米メ国境
    サハラ砂漠に飲み込まれつつあるチャド湖
    (チャド)
    米メ国境
    温暖化により水没の危機にあるサンゴ礁
    (セイシェル)
    米メ国境
    水鳥の楽園・スンダルバンズ湿地帯
    (バングラディシュ)

     またEarthKAM事務局に提案し、今も継続している作業もあります。それは、ラムサール条約(特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約)に登録された、世界1200ヵ所を超える地域を宇宙から撮影し続けることです。これをデータとして残していけば、条約で保護されている場所を継続的に観察することができます。そのデータを私たち学園が提供することで、地球環境の保全に少しでも役立つのではないかと考え、この作業も大事な取り組みとして位置付けています。

    セレブロフ博士
    「常に"問い"を忘れない人に」
    セレブロフ博士との懇談会で
     6回目の参加となった2003年1月のミッションでは、ロシアの宇宙飛行士であるセレブロフ博士を関西創価学園にお迎えした際、EarthKAMプロジェクトチームの代表が懇談していただくことができました。席上、博士は21世紀を人類が生き延びていくためには、宇宙的視野で全てを見つめていく『宇宙の哲学』が必要不可欠であり、これを広めていくことこそ宇宙飛行士に課せられた使命であると力説されました。また「宇宙から地球を見つめる視点を共有しているという点で、皆さんは我々の同僚です」と私たちに呼びかけてくださいました。
     懇談会に参加したメンバーは「EarthKAMへの取り組みを通して、私たちにも『宇宙の哲学』を世界に広め、平和な社会を建設していく使命と責任があることを教えていただきました」と、決意を新たにしていました。

     8回目の参加となった2003年5月ミッションでは、期間内にISSが関西創価学園の上空を通過することが判明し、4年来の宿願であった反射実験に再挑戦しました。
     5月1日、雲一つない快晴。生徒たちは校舎の屋上やグラウンドなどに計6枚の反射板を展開し、午後1時17分33秒の「その時」を待ちました。
     ISS内でトラブルが発生し通信回線が使用できなくなってしまったために、地上へのデータ転送ができず、翌2日の段階では写真が公開されていませんでした。「またしてもダメか…」と半ば諦めかけた頃、5日になってようやくデータが公開され、紀伊半島の写真の片隅に何とか関西創価学園のある交野市が写っていることが判明しました。

    アルゼンチン
    写真上部中央やや右よりの○印が交野市付近
    米メ国境
    地上400kmから捉えた反射光(写真中央の○印)

     写真の拡大率をあげ、25,000分の1地形図と見比べながら位置を特定する作業を2時間近くおこなった結果、(1)地形図から輝点の位置が反射板設置場所と一致する、(2)1km離れた銀色の屋根をもつ交野スタードーム(直径約50m)を示す輝点より明るい、(3)校内の設置場所付近には反射板以外に高い反射率を持った構造物が存在しない、などの理由から考えて私たちが設置した6枚の反射板のうち、1枚ないし2枚の反射光が捉えられている可能性が極めて高いことが判明したのです。これには、実験に携わった生徒たちも大喜びでした。
     今後は反射板の数や配列を工夫し、反射光の確認がより確実におこなえるよう検討を始めています。


  9. EarthKAMを振り返って
  10.  これらEarthKAMへの取り組みは、英語・コンピュータ・地理・物理・数学などの教科学習への強力なモチベーションとなると同時に、「E-mailやWebを用いた情報の検索・交換・発信技術の習得(情報教育)」、「プロジェクトの立ち上げから成功へ導くまでのチームワークや、アイディアを実現させていくプロセスの習得(問題解決型学習)」、「下級生、地元市民等への『特別授業』を通したプレゼンテーション手法の習得(地域貢献、プレゼンテーション学習)」、「『平和』『環境』への新たな問題意識の醸成(平和教育、環境教育)」、「『日本の指導者』『世界の指導者』としての使命感の自覚(創立精神)」、「学年の壁を越えた交流(創価学園合い言葉)」など、文系・理系の枠をも越えた素晴らしい総合的学習の場となりました。

     私自身も関西創価学園出身で、高校時代に文化祭で創立者の対談集『二十一世紀への対話』(A・トインビー博士との対談集)を題材にして研究論集を作り、研究発表したことがありました。(第2回白鳳祭実行委員会企画『学園生による21世紀展――今我々は何をなすべきか』)
     授業では教わらないけれど、自分たち自身で学んでいかなくてはならない大切な点を創立者から教えていただきながら、自分たちで研鑽を深めていくという作業の中で、知的好奇心を満たし、充実感を味わい、忘れられない思い出となりました。
     生徒たちもEarthKAMの活動の中で、それぞれが自信をつけながら視野を広げ、かつて私が感じたような充実感を得ているのではないかと思います。
     EarthKAMは参加のたびにメンバーを募集し、毎回、一から作り上げます。メンバーは入れ替わり立ち替わりですが、中には毎回参加という強者もいて頼もしいかぎりです。これからもEarthKAMの活動を通し、地球的視野で私たちが役立つことを探し出して行動しながら、生徒たちの成長を見守っていきたいと思っております。

    以上

    注1:関西創価学園EarthKAMプロジェクトのウェッブサイトURL  http://www2.kansai.soka.ed.jp/~earthkam/
    注2:地球を撮影した写真はすべて、© NASA/UCSD

Bar

Home Back