INSTITUTE of NATURAL SCIENCE and EDUCATION in SOKA SCHOOL SYSTEM

野鳥・自然環境研究所報告

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第5巻第1号 (通巻第17号)

2005年5月11日 発行


『地球憲章』教材化への試み

関西創価中学校教諭  池田 勝利(研究員)


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 私たち創価学園の創立者である池田大作先生は、2002年8月に南アフリカ共和国・ヨハネスブルグで行われた「持続可能な開発に関する世界首脳会議(環境開発サミット)」に寄せて、提言「地球革命への挑戦──持続可能な未来のための教育」を発表されました。
 この中で池田先生は、「一人一人が環境問題を“自分自身の問題”として捉え、共通の未来のために、心を合わせて努力していく──その原動力となるのは、何といっても『教育』です」と述べられ、環境教育の重要性を強調されています。
 また提言の中で紹介された『持続可能な開発のための教育の10年』は、SGIの提案により第57回国連総会において決議され、本2005年よりスタートしました。
 池田先生はこの『教育の10年』について、次の三つの段階を踏まえた総合的な取り組みが必要であると、具体的に言及されました。
(1) 地球環境問題の現状を知り、学ぶこと
(2) 持続可能な未来を目指し、生き方を見直すこと
(3) 問題解決のために、ともに立ち上がり、具体的な行動に踏み出すためのエンパワーメント
 私は、2003年4月より2005年3月まで、2年連続で中学3年生の理科(関西創価中学校29期生、30期生の授業)を担当しました。
 中学3年3学期の理科は『科学技術と人間』(第1分野)、『自然と人間』(第2分野)という単元構成で、人類の発展が自然に影響を与えてきた歴史と、地球と人類の未来について学習するカリキュラムとなっています。
 そこで私は、この2単元を関西創価中学校における『持続可能な開発のための教育』の一環として位置づけ、『地球憲章』の学習を中心に創立者の提言に沿った授業の組み立てを考えることにしました。

  1. 現状を知り、学ぶ
  2.  池田先生は提言の中で「子どもたちに、自然を愛する心や地球を守る心を育むことは、“子どもたちの未来”を守ることにもつながります」と述べられています。
     3学期の導入として、まず冬休み課題『私の自然観察路』の作成に取り組みました。
     これは公益信託富士フィルム・グリーンファンドおよび財団法人国立公園協会が主催して行っている同名のコンクールにヒントを得たもので、生徒たちに普段見過ごしてしまいがちな身近な自然環境に目を向けてもらうことを主眼としています。自宅周辺の自然観察ポイントについて絵地図形式でまとめ、他の作品と見比べることで、自分の身の回りにどれだけ自然が残っているか、また逆に失われているのかを体験的に学ぶのが目的です。
     生徒たちの感想に「注意してみると、町中でも意外と自然が残っていることにびっくりしました」といった内容が多かったのが印象的でした。

    生徒作品1 生徒作品2
    『私の自然観察路』生徒作品例

     これに続く3学期前半の授業では、教科書に加え日本経済新聞社編『地球環境問題入門』をテキストとして、資源・エネルギー問題、食糧問題、人口問題、環境問題(砂漠化・酸性雨・森林破壊・海洋汚染・オゾン層破壊・温暖化など)についての現状と、これら諸問題に対しこれまでに人類が取り組んできた歴史について、具体的な数値を挙げるなど突っ込んだ学習を進めました。


  3. 生き方を見直す
  4.  池田先生は提言の中で「私たちの日常生活はすべて環境問題に密接につながっており、地球的な規模でプラスの変化を起こす『力』と『使命』が一人一人にあるとの自覚を促す教育が必要となります」と述べられています。
     そこで3学期後半の授業は、前述の提言そのものを読み合わせることから始めました。そして提言の中で地球市民が『持続可能』な暮らしを行うための行動指針として位置づけられている『地球憲章』を教材として取り上げることにしました。
     『地球憲章』の原文は英語で、そのままでは中学3年生レベルの英語力で内容を読みこなすことができないことから、地球憲章日本委員会が出している日本語訳を教材として利用しました。(最終草案
     しかし日本語訳とはいっても社会人向けに書かれたものと思われ、かなり難解な言葉や専門用語が使われています。
     池田先生は提言の中で「今後、地球憲章をより多くの人々の心に根付かせていくために、学校や地域で、それぞれの特性を踏まえた環境問題の題材を取り上げながら、憲章を学んでいく機会を積極的に設けることを提案したいと思います」と述べられています。

     2003年3月、京都を中心に開催された『世界水フォーラム』に参加するため来日中だった3名の地球憲章アメリカ委員会(Earth Charter USA)のメンバーと懇談する機会がありました。これは、(1) 地球憲章委員会では特に子どもたちへの普及教育に力を注いでいること、(2) 子どもたちが『地球憲章』について学べるように、小中学生向けの教材開発・実践例収集を行っており、英語・スペイン語の2カ国語では既にインターネット上で公開していること、(3) 将来的には日本語でも同様の取り組みを行いたいこと、など海外における『地球憲章教育』の現状について学ぶ貴重な機会となりました。特に、小学生が『地球憲章』について学んだあと絵に描いて表現するというカナダにおける実践例など、具体的な普及教育のイメージがつかめたことが私にとって大きな収穫でした。
    生徒作品3
    子ども向け『地球憲章』生徒作品群
     そこで思いついたのが、『地球憲章子ども向け翻訳』という取り組みです。
     これは(A) 幼稚園年長児向け、(B) 小学校低学年向け、(C) 小学校中学年向け、(D) 小学校高学年向け、の4つのレベルを設定し、生徒たちに『地球憲章』の内容を“翻訳”してもらおうというものです。1年目の中学29期生は班(6〜7人)で1作品を作成し計35作品、2年目の中学30期生は1人で1作品の作成に挑戦した結果、約200作品が完成しています。
     作品の形態には縮約、創作童話、漫画、人形劇、絵本、紙芝居など様々なものがあり、私にはとても思いつかないようなユニークな作品も多く、学園生の創造性の豊かさに改めて感動させられました。
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    子ども向け『地球憲章』生徒作品例1(幼稚園年長児向け)


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    生徒作品5-13 生徒作品5-14 子ども向け『地球憲章』生徒作品例2
    (小学校1、2年生向け)


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    子ども向け『地球憲章』生徒作品例3(小学校3、4年生向け)

       

  5. 行動に踏み出す
  6.  池田先生は提言の中で「倫理を自らの『誓い』として高め、それを果たしゆくことを『使命』とし、『喜び』としていく生き方を確立していくことこそが大切になります」と述べられています。
     将来社会の中に巣立っていく中学3年生には、まず先人の行動について学ぶことを通して、自らの『誓い』と『使命感』を育んでもらおうと、地球評議会Earth Council)制作のVTR「静かなる革命」(注1)を視聴、またVTRの中に登場する2004年度ノーベル平和賞受賞者マータイ博士(注2)と池田先生の対談記事(2005年2月19日付聖教新聞掲載)を読み合わせました。(29期生は、随筆「人生は素晴らしい」第23回『インド「緑の革命」の父 スワミナサン博士(注3)』、2004年3月7日付聖教新聞掲載の読み合わせ)
     また10代という年齢でも世界に対して大きな働きかけができるのだということを学ぶため、世界中の人々に地球環境への関心を持って欲しいと関西創価学園 ISS EarthKAM プロジェクトチームが制作し1万人以上に呼びかけたVTR「ISS EarthKAM 2001」を視聴。また1992年6月、リオ・デ・ジャネイロで行われた「環境と開発に関する国際会議(環境サミット)」の席上、12歳の少女セヴァン・スズキ(注4)さんが行った伝説のスピーチ「未来世代からのメッセージ」を読み上げ、感動の中で授業を締めくくりました。

    セヴァン・スズキ、12歳のときの伝説のスピーチ(抜粋)

     私がここに立って話をしているのは、未来に生きる子どもたちのためです。世界中の飢えに苦しむ子どもたちのためです。そして、もう行くところもなく、死に絶えようとしている無数の動物たちのためです。
     太陽のもとにでるのが、私はこわい。オゾン層に穴があいたから。呼吸をすることさえこわい。空気にどんな毒が入っているかもしれないから。父とよくバンクーバーで釣りをしたものです。数年前に、体中ガンでおかされた魚に出会うまで。そして今、動物や植物たちが毎日のように絶滅していくのを、私たちは耳にします。それらは、もう永遠にもどってはこないんです。
     私の世代には、夢があります。いつか野生の動物たちの群れや、たくさんの鳥や蝶が舞うジャングルを見ることです。でも、私の子どもたちの世代は、もうそんな夢をもつこともできなくなるのではないか?あなたがたは、私ぐらいのとしの時に、そんなことを心配したことがありますか。
     あるいは、報道関係者か政治家かもしれない。でもほんとうは、あなたがたもだれかの母親であり、父親でこんな大変なことが、ものすごい勢いで起こっているのに、私たち人間ときたら、まるでまだまだ余裕があるようなのんきな顔をしています。
     まだ子どもの私には、この危機を救うのに何をしたらいいのかはっきりわかりません。でもあなたがた大人にも知ってほしいんです。あなたがたもよい解決法なんてもっていないっていうことを。オゾン層にあいた穴をどうやってふさぐのか、あなたは知らないでしょう。死んだ川にどうやってサケを呼びもどすのか、あなたは知らないでしょう。絶滅した動物をどうやって生きかえらせるのか、あなたは知らないでしょう。そして、今や砂漠となってしまった場所にどうやって森をよみがえらせるのかあなたは知らないでしょう。
     どうやって直すのかわからないものを、こわしつづけるのはもうやめてください。
     ここでは、あなたがたは政府とか企業とか団体とかの代表であり、姉妹であり、兄弟であり、おばであり、おじなんです。そしてあなたがたのだれもが、だれかの子どもなんです。
     もし戦争のために使われているお金をぜんぶ、貧しさと環境問題を解決するために使えばこの地球はすばらしい星になるでしょう。私はまだ子どもだけどこのことを知っています。
     学校で、いや、幼稚園でさえ、あなたがた大人は私たちに、世のなかでどうふるまうかを教えてくれます。たとえば、  ○争いをしないこと、  ○話しあいで解決すること、  ○他人を尊重すること、 ○ちらかしたら自分でかたづけること、  ○ほかの生き物をむやみに傷つけないこと、  ○分かちあうこと、  ○そして欲ばらないこと。
     ならばなぜ、あなたがたは、私たちにするなということをしているんですか。
     なぜあなたがたがこうした会議に出席しているのか、どうか忘れないでください。そしていったい誰のためにやっているのか。それはあなたがたの子ども、つまり私たちのためです。あなたがたはこうした会議で、私たちがどんな世界に育ち生きていくのかを決めているんです。

     最後にこの授業を受けた中学30期生220名のアンケート結果を記し、結びに代えたいと思います。

    アンケート結果

    1. 「地球環境問題」について、あなたの理解は深まりましたか?
         はい 88%いいえ 12%
    2. 「地球憲章子ども向け翻訳」に取り組みましたが、あなたの「地球憲章」への理解は深まりましたか?
    はい 68%いいえ 32%
    3. 「地球憲章」を学んだあなたは、行動をどう変えていきたいですか?
      ・自分も地球市民の一人なんだともっと自覚して一つ一つの行動に責任を持っていこうと思う。
      ・自分たち一人一人が行動していかなければならないことを学びました。
      ・これからは自分の為だけでなく、人の為、未来世代の人の為を考えて行動したいと思います。
      ・小さなこと、人を思いやる気持ち一つが、地球を守ることにつながっていると感じました。
    4. セヴァン・スズキさんのスピーチを読んで、あなたはどう思いましたか?
      ・とても感動しました。私たちと同じくらいの子が、大人に対してこんなスピーチができるなんてすごく勇気があると思いました。
      ・これからの時代は、自分たちがしっかり築いていかなくてはならないと思いました。
      ・とても感動しました。誰かがやってくれるだろうと考えていてはいけないと思いました。
      ・中学生の私たちでも、やればできることを教えてもらいました。
    5. VTR「静かなる革命」の感想を簡単に書いて下さい。
      ・一人が立ち上がれば皆も立ち上がるということに感動しました。
      ・世界の現状を知って悲しくなりました。だから今私たちが当たり前と思っている一つ一つのことにも感謝して大切にしていきたい。
      ・同じ地球に住んでいるのに、地域が違うだけでこんなにも違うのかと知り、今の自分が恥ずかしくなりました。
      ・今まで大人がやることなんだから関係ないと思ってきましたが、自分たちだからできることがあるんじゃないかと気づいた気がします。
      ・「一人でも何かはできる。それがみんなだと大きなことができる」とのマータイ博士のメッセージに感動しました。
      ・感動しました。とてもわかりやすかったです。「人間が生んだ問題を、人間が解決できないはずはない」ということをこの目で確かめることができました。
    6. 3学期の授業全体を通しての感想を書いて下さい。
      ・3学期の授業のおかげで、環境について真剣に考えることができました。
      ・自分の将来について考え直すきっかけとなりました。僕が地球を変えてやる!という気持ちが芽生えた授業でした。
      ・私たちが今最も考えなければならない大切なことを学べたと思います。
      ・いろいろな視点からものごとを見ることができるようになりました。これからは地球に住む一人としてさまざまなことを学び続け、行動していきます。


    (注1)映画「静かなる革命」
     この作品は、地球評議会がUNEP(国連環境計画)、UNDP(国連開発計画)の協力を得て制作したもの。スロバキア環境庁主催の国際環境映画祭で「スボレン工科大学学長賞」を受賞。公共放送でも、アメリカのPBSテレビ、アフリカSABCテレビ等で放映され、さらにNGOや教育者に環境教育の教材として活用されている。2002年8月末、南アフリカ・ヨハネスブルグで開催された「環境開発サミット」の映画祭で、SGIが制作を支援した映画「静かなる革命」が、正式公開作品として上映された。

    (注2)ワンガリ・マータイ博士
     1940年、ケニア中部のニエリに生まれる。米国に留学し、生物学を学ぶ。71年にケニア・ナイロビ大学で博士号を取得。77年から「グリーンベルト運動」を推進。環境保護には、民主化された政府が不可欠であることから、民主主義の発展にも尽力。2002年の国会議員選挙で当選し、翌年、環境副大臣に就任した。昨年、「持続可能な開発と、民主主義と平和への貢献」が認められ、環境分野で初のノーベル平和賞が贈られた。2月14日から毎日新聞社の招へいで来日。16日には京都市で、地球温暖化防止の「京都議定書」の発効を記念し講演。「私たちは未来を変えることができるのです」と訴えた。

    (注3)モンコンブ・S・スワミナサン博士
     1925年、インドのタミル・ナドゥ州に生まれる。インドにおける「緑の革命」の父として知られ、「現代インドの顔」と讃えられる世界的に著名な遺伝学者。パグウォッシュ会議会長。博士らは、1954年以来、小麦の品種改良に没頭し、12年かけて収穫量が従来の3倍になる新品種を開発。自ら農村に分け入って技術の普及に努め、インドを食糧危機から救った。いわゆる「緑の革命」である。1999年、アメリカの『タイム』誌が「20世紀における最も影響力のあるアジア人」として、インドから、ガンジー、タゴールとともに選出したのが、スワミナサン博士であった。博士はユネスコ(国連教育科学文化機関)では「環境技術計画部長」を務め、南アフリカ・ヨハネスブルクの「環境開発サミット」でも講演している。

    (注4)セヴァン・カリス=スズキ
     1979年生まれ。カナダ在住、日系4世。幼いときに両親と訪れたアマゾンへの旅がきっかけで、9歳のときにECO(Environmental Children Organization)という環境学習グループを立ち上げる。1992年、ブラジルのリオ・デ・ジャネイロで「自分たちの将来が決められる会議」が開かれることを聞き、「子どもこそがその会議に参加すべき!」と自分たちで費用を貯め、「地球環境サミット」へ赴く。NGOブースでのねばり強いアピール活動が実を結び、サミット最終日、セヴァンは「子ども代表」としてスピーチするチャンスを得た。12歳にして大人を圧倒させた感動的なスピーチは、「リオの伝説のスピーチ」として、世界中で紹介されることとなる。

    以上


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