INSTITUTE of NATURAL SCIENCE and EDUCATION in SOKA SCHOOL SYSTEM

野鳥・自然環境研究所報告

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第2巻第4号 (通巻第8号)

2003年2月11日 発行


  1. 環境にやさしい生活スタイルを 〜廃油石けん作りの体験学習〜

  2. PHOTO REPORT IN 別海 「別海町 尾岱沼の日の出」

  3. PHOTO REPORT IN 霧島「冬の使者“ツル”が鹿児島県出水市に」


環境にやさしい生活スタイルを
〜廃油石けん作りの体験学習〜

東京創価小学校  谷合 久美子


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  1. はじめに
  2.  21世紀を迎えた今、環境問題についての話題は毎日のようにニュースに取り上げられる程、地球環境の危機は全人類的課題となっています。環境問題は、現代人が当たり前にしてきた日常生活に端を発し地球環境を破壊してきたという事実を辿ると、環境問題に無関係な人間は一人もいません。こうした意味から、早期環境教育の重要性を実感しています。
     2002年度より、5、6年の理科・社会科・家庭科を総合的な学習の一環として「環境」を新設しました。これまでの知識・技能を中心とした家庭科を、環境教育という視点で捉え直し、子ども自身が人やものや文化との「つながり」に気づき、「ふれあい」を実感していけるような実体験を重視した授業実践がねらいです。
     例えば、家庭科の衣領域のひとつに「衣服の手入れ」という単元があります。これは衣服についている絵表示の読み方を学んだり、洗濯の方法を考えて洗濯を実践する内容ですが、ここに環境教育の視点を加えると、限りある水資源を守っていくために、洗濯と深い関わりがある「水」と「洗剤」の使い方の工夫を具体的に取り上げていくこと等が考えられます。洗剤は衣服の汚れを取り除くために欠かせないものですが、家庭から流される生活雑排水のうち、洗濯排水は河川や湖沼の水質汚染を引き起こす環境破壊の原因の一つといわれています。
     沢山の「洗濯用洗剤」が販売される中、消費者として何を基準に商品選択をし、消費行動をしていくかが、これからの地球環境を守るうえで大変重要な課題です。賢い消費者として、環境を守るために何を選び、何を使用するかを考え、価値判断できる力を大人から子どもまで全ての人が身につけていく必要があると思います。それが今、注目されている21世紀型の消費者の姿、環境を守るために行動する地球市民、環境を汚さない工夫や配慮を実践する消費者=『グリーンコンシューマー』です。 そこで、子どもレベルで環境を守るためにできることを実行する一人ひとりになってほしいと願い、下記のような廃油石けん作りとそれを使った洗濯の体験実習の授業を試みました。


  3. 実践事例
    1. 学習指導計画
    2. 『グリーンコンシューマーになろう 〜環境にやさしい洗たくをしよう〜』(6時間扱い)
      (1) 衣服の汚れと洗剤の種類と使い方4時間
          1. 洗剤の種類(1)
      2. 環境にやさしい洗剤(1)
      3. 廃油せっけん作り(実験実習)(2)
      (2) くつ下を洗おう(洗濯実習)2時間


    3. 実際の授業
      1. 衣服の汚れと洗剤の種類と使い方 (導入)

         洗濯をするきっかけとなる衣服につく汚れは、いくつかあります。子ども達に学校生活のなかでつく汚れをあげさせると、給食の食べこぼし、書道の墨汁、絵の具などがでてきます。汚れの要因には、外界からの汚れと体内からの汚れがあり、これらを衣服から取り除き見た目と清潔を保つために「洗う=洗濯」が行なわれます。

        1. 洗剤の種類
           衣服の洗濯には、汚れを落し洗い流す溶剤の役目をする「水」、汚れを落す「動作」、そして汚れを落し易くする「洗剤」の3つの要素が欠かせません。ここからは、3つの要素のひとつ「洗剤」に注目していくことを確認し、教卓机に洗濯用洗剤の商品サンプルを並べました。「洗濯用洗剤」と一口にいっても多くの商品があることを知らせるために、ほんの一例として下記の12種をサンプルとして用意しました。

          a.アタック(粉末)1.2kg合成洗剤花王株式会社
          b.スパーク(粉末)1.2kg合成洗剤ライオン株式会社
          c.速効トップ(液体)800mL合成洗剤ライオン株式会社
          d.ホワイト(粉末)1.5kg合成洗剤ダイエー株式会社
          e.パーフェクトV(粉末)1.2kg合成洗剤スマイル株式会社
          f.パックスナチュロン(粉末)1.5kgせっけん太陽油脂株式会社
          g.洗たく用粉石けん(粉末)3.0kgせっけんスマイル株式会社
          h.せっけん(液体)1.2L複合せっけんミヨシ石けん株式会社
          i.白い風(液体)800mL複合せっけんミヨシ油脂株式会社
          j.マルセル石けん(固体)500gせっけん太陽油脂株式会社
          k.純せっけん(固体)190gせっけん玉の肌石けん株式会社
          l.藍マルセル石けん(固体)180gせっけんミヨシ石けん株式会社

          洗剤1
          (1)洗濯用合成洗剤
          洗剤2
          (2)洗濯用複合石けん
          洗剤3
          (3)洗濯用石けん

           家で使っているものと同じ洗剤があるか尋ねると「家はアタックだよ」「家で使っているのは確か違ったな」と声が返ってきました。
           これらの洗剤は全て衣類を洗濯するための洗剤ですが、3つの種類に大別することができます。そこで、子ども達にどんな3つのグループにわけることができるか考えてもらいました。子ども達がすぐに考えついたのは「粉末」「液体」「固体」の外観での分け方でした。その他にもあると、挙手した子は洗剤のパッケージに書かれている「植物性」「天然」という言葉に注目し、違いを見付けようとしていました。
          洗剤4
          【洗剤の品質表示】
           ここで、洗剤は成分の違いによって、(1)合成洗剤 (2)複合せっけん (3)せっけんというグループに分けられることを「家庭用品品質表示法に基づく表示」に記載されている品名と成分の欄を示しながら確認しました。商品が何からできているかを知るにはこの品質表示で見分けることができます。
           次に、家の人から買い物を頼まれたら、12種類の洗剤の中からどれを選び購入するかを尋ねてみました。
           結果、子ども達の殆どが「合成洗剤」を選びました。合成洗剤は比較的安価で、テレビコマーシャルも頻繁にされています。一方、石けんは合成洗剤の2倍以上の値段でテレビコマーシャルはされていません。子ども達の商品を選ぶ基準は、値段が安いもの、コンパクトなもの、CMで見たことがあるものであることがわかりました。

        2. 環境にやさしい洗剤
          プリント1
          【資料プリント(1)】
           それでは「洗濯に使う洗剤は汚れさえ落ちれば何でもいいのだろうか?」との疑問がわいてきます。はじめに確認したように「洗濯用洗剤」と一口にいっても色々あり、その正体と影響力ははっきり見た目ではわかりません。
           合成洗剤と石けんは、その成分に違いがあり、一般的に合成洗剤は水質汚染・環境破壊を引き起し、人体に悪影響を及ぼすと言われています。しかし、子ども達の家庭の大半は合成洗剤を愛用しており、文献の資料を提示して合成洗剤の問題点を解説しても、上滑りの理論に終わってしまうのではないかと感じました。「百聞は一見にしかず」の諺通り、手軽な実験で提示することができればと考え、洗剤の植物への影響を見ることができる「発芽テスト」を行ってみました。
           「発芽テスト」は、植物の発芽や成長に、合成洗剤・石けんそれぞれが与える影響を調べる実験です。子ども達には環境クイズとして出題し、実験結果の予想をたててもらうことにしました。

           6年生児童111名に実施したクイズの予想とその理由を集計すると、次のようになりました。

          (1)「水では育つが、洗剤液では発芽しない」と予測53名
          【理由】 ・科学と自然は調和しない
          ・石けんや洗剤は花や草に悪いと思う
          ・洗濯以外に使うものではないから
          ・飲めば人間にも有害だから、種も同じ
          (2)「3種類どれも発芽し、育つ」と予測10名
          【理由】 ・弱アルカリ性は、水と同じだから3つとも発芽する
          ・水で薄めれば大丈夫だと思う
          ・ 直感
          (3)「水と合成洗剤液が発芽する」と予測11名
          【理由】 ・合成洗剤には成分がいろいろ入っているから植物が育つ成分も入っているかもしれないと思う
          ・水は絶対成長するけど、粉石けん液は育たなさそう
          ・直感
          (4)「水と粉石けん液が、発芽する」と予測37名
          【理由】 ・粉石けんは植物性だから
          ・合成洗剤は成分が多くて害がありそうだから
          ・粉石けんには純石けん分と炭酸塩しか入っていない。塩は海にもともとある成分
          (5)「合成洗剤液と粉石けん液が、発芽する」と予測0名
          (6)「どれも発芽しない」と予測0名

           一週間後の授業で、このつまみ菜がどのようになったかを発表しました。発芽テストの結果発表は、生育状況を提示するとともに、生育の過程を記録した写真をテレビ画面に映し出して比較しました。

          《洗剤による植物への影響を調べる 〜つまみ菜の発芽テスト〜》
           粉せっけん液合成洗剤液
          3日目水3 粉せっけん3 合成洗剤3
          5日目水5 粉せっけん5 合成洗剤5
          7日目水7 粉せっけん7 合成洗剤7

           クイズの結果は(4)が正解です。水と粉せっけん液で育てたつまみ菜は、日が経つごとにみるみる葉が増えました。水だけよりもむしろ、粉石けん液のつまみ菜の方が葉の色は鮮やかで元気がよく見えます。一方、合成洗剤液の方は、一週間を過ぎると腐敗が始まりネバネバ糸を引き悪臭がしてきました。合成洗剤の生育の悪さには子ども達も驚いた様子でした。クイズで子ども達が予測した通り「合成洗剤は植物に良くない成分」が入っていることに気がついたようです。そしてこの発芽実験の結果から、洗たく用粉せっけんは合成洗剤よりも環境にやさしい洗剤であることを納得したようです。
           このように粉石けん液で植物が生育できた理由は洗剤の主成分にあり、合成洗剤は石油を原料とした多くの化学物質から作られているのに対し、石けんは動植物の油脂が原料に作られていることを、品質表示の「成分」欄に注目させながら知らせました。

        3. 廃油せっけん作り
          プリント2
          【資料プリント(2)】
           廃油せっけん作りは、平成10年から導入し始めました。初年度は牛乳パックの中で水酸化ナトリウムと水と廃油を割り箸で撹拌させる方法で実施しましたが、水酸化ナトリウムの取り扱いについては、十分な注意が必要です。子どもの作業としては、火傷などの危険を伴う心配がありました。また割り箸で撹拌させるので、撹拌が遅いと水酸化ナトリウムが反応しきれず油と分離してしまい、うまく仕上がらない石けんもありました。翌年は、市販の廃油石けん作りの素を使用してみましたが、熱を加えて作る方法だった為、教室中に臭いと煙が立ち込めてしまい失敗。その次の年は教育雑誌『灯台』(1998年11月号 第三文明社)に、「米糠」を入れて作る廃油石けんの作り方が掲載されており、新たな方法で挑戦してみました。米糠を入れることで、石けんの固まりが早く,混ぜるときに液が飛び散るのを防ぐことができる,糠の粒子が洗剤の研磨剤のような役目をして、汚れがよく落ちる,といった利点を得ることができました。しかしこの方法でも水酸化ナトリウムによる危険性が完全に消えたとは言い切れませんでした。
           何とか子どもでも安全、且つ失敗なく作ることができる方法はないかと試行錯誤を繰り返す中、最終的 に辿り着いたのが、ミキサーを使用した作り方です。ミキサーで撹拌することで薬品と廃油の鹸化反応が素早く行われ、失敗はありません。また、子どもでも安全に安心して作ることができます。
           実際の授業では、【資料プリント(2)】ような作り方のプリントを配布し手順を説明した後、各班ごとに作業をします。また、作業時は安全のため、必ず手には軍手かゴム手袋をつけ長袖の校内服で、薬品の臭いが気になる子はマスクも付けて実習することを徹底しました。

          〈せっけん作り実習の様子〉
          写真1
          「水酸化ナトリウムの扱いは慎重に」
          写真2
          「これで完成! 固まってくるかが楽しみだ」

      2. くつ下を洗おう(洗たく実習)

         一週間後、子ども達が作った石けんは立派な固形石けんに完成しました。この手作り廃油石けんで自分の汚れたくつ下を手洗い洗濯し、石けんの洗浄力を試してみることにしました。子ども達は口々に「このせっけん、本当に汚れが落ちるの?」と言っていました。「ものすごく、よく落ちるからビックリするよ。」との言葉を疑っていました。洗濯を始める前に、環境にやさしい洗濯の仕方を考えました。いくら環境に良い石けんを使っていても、水の無駄使いをしては環境にやさしい洗濯とは言えません。特にすすぎの時は「ためすすぎ」と「流しすすぎ」とでは、水の必要量に大きな違いがでます。たらいを使い「ためすすぎ」で節水を心掛けるよう進めました。

        〈くつ下の洗濯実習の様子〉
        写真3
        「ゴシゴシこすって、きれいになるかな?」
        写真4
        「ワーッ。汚れが落ちてきているよ」

    4. 子どもの感想とまとめ
    5.  廃油石けん作りとその石けんを使ってたくつ下洗濯の実習をして、子ども達は次のような感想を寄せてくれました。

      • せっけんを作るときは、理科の実験みたいで楽しかった。くつ下を洗たくして水の節約や合成洗剤が悪いことも勉強してわかった。
        (S.T)

      • 私は、今回せっけん作りをしたのは、とっても成功したと思います。家などで家族にも教えたりして作りたいです。そしてこれをはじめとして環境を守るためにリサイクルしたものを作ったり、使ったりしていきたいです。
        (W.O)

      • 今日、自分で作ったせっけんでくつ下を洗いました。油からできたせっけんで、あんなに泡がたって、キレイになるなんて「すごいな」と思いました。自分のくつ下とか簡単なものは、このせっけんで洗って自然のためにも、お母さんのためにも役に立ちたいと思います。
        (T.K)

      • 自分で作ったせっけんで、くつ下がとても真っ白になって、ビックリしました。先生が 最初に「おそうじのおばさんが、どんな洗剤でも落ちなかったよごれがこれで落ちた」といっていたので、本当かな〜?と思いました。でも、机とかもすごくピカピカになってスグレモノだと思いました。
        (Y.O)

       最初は「本当にこんな石けんでキレイになるのかな」と言っていた子ども達も廃油石けんの優れた洗浄力を実感したようです。また洗濯は大部分を親に頼っている成長期の子ども達にとって、汚れた下着やくつ下くらいは自分で洗う習慣を身につけさせたいと思っていました。このようにして手作りで石けん作ったり、その石けんを使った洗濯実習を通して、日頃、なかなか気に止めない洗濯用洗剤について考えたり、できる仕事は自分でしていこうという意識が持てたのではないかと思います。子ども達の多くに、今後はこの廃油石けんを使って家庭でも洗濯をしてみようと思えた子がいたことは、体験学習の最大の効果であったと思います。


  4. まとめと今後の課題
  5.  環境教育を視点に加えた今回の洗濯の学習では、子ども達の変化とともに、体験学習による3つの効果を得ることができました。

    1. 人にやさしい石けんの効果
       自分で作った石けんは、実習後、家へ持ち帰り活用するよう呼び掛けていますが、洗濯だけでなく掃除にも活用できる石けんだと知ると、いつもお世話になっている学校のクリーンスタッフのおばさん達に使ってもらいたいとプレゼントをする子もいました。
       授業で廃油石けん作りに取り組んで以来、本校のクリーンスタッフの方は、床や壁の汚れを落とすのにこの廃油石けんを使用しています。かつて市販の掃除用合成洗剤を使用していたときは洗剤による手荒れに悩まれていたそうです。しかしこの廃油石けんに使用を切り替えてからは、手荒れが殆どなくなったと伺いました。

    2. リサイクルシステムの確立と経費節減
       石けん作りに使用する廃油は学校の給食から出た廃油を頂戴しています。まさに子ども達にとって身近にできる環境保護のためのリサイクル運動です。給食で使った油を、授業で子ども達が使う、そのできた石けんを学校のお掃除・また家庭で使用するというサイクルができました。また家庭科室では机の汚れ落としはもちろんのこと、食器用洗剤としてもこの廃油石けんを活用しています。市販の洗剤を購入する必要がなくなり、経費削減にもつながっています。これこそ循環型社会の縮小モデルではないかと思います。

    3. 子ども自身のライフスタイルの変化
       「授業で環境のことを学んで、今、地球は環境問題に侵されているのを知り、洗剤から地球にやさしいせっけんにしようと思いました。でも家では、お母さんに『せっけんにして』というと『洗濯する時、手洗いだと大変だからダメ』と言われてしまいました。これからは、地球にやさしいものを使いたいです」「合成洗剤が地球にどれだけ悪いかを勉強したので、お母さんに言って洗濯の時は洗剤を入れすぎないようにしてもらっています」「授業でいろいろなことを知って、少しでもやってみようと思い、お母さんにも教えてあげて水の節約をするようにしました」と子ども達の感想にありました。このように環境について子ども自身が考え、思ったことを家庭に持ち帰ることで、子どもが親子の対話の話題を提供することにもなります。子ども達が環境問題の事実を知り、意識をもつことが家庭での環境に対する意識革命につながっていくことを期待しています。

     今は、消費者が「買わされる時代」から、消費者が「賢く選び取る時代」に変わっています。地球環境という大きな問題を草の根運動で解決の方向に持っていけるのは、私たち消費者です。グリーンコンシューマー(緑の消費者)を育てることは、環境にやさしいライフスタイルを実践する子どもを育てることです。  環境の体験学習は一つのことをする中で様々な学習要素を含んでいます。まず現状を知ること、考えることが大切です。その上で、体験・実践してみることがとても重要であることが分かりました。そして現状を変えるため、実生活の中で自分のライフスタイルに合わせて工夫していこうとする実践的な態度が身につくのではないかと思います。
     21世紀は「環境の世紀」です。創立者池田先生は、南アフリカの環境開発サミットに向けて発表した環境提言の中で、「子ども達に、自然を愛する心や地球を守る心を育むことは、子ども達の未来を守ることにつながること」、「一人ひとりが環境問題を自分自身の問題として捉え、共通の未来のために心を合わせていく。その原動力となるのは、教育である」(趣意)と環境教育の役割を強調しておられます。今後も、持続可能な未来のためにライフスタイルの見直しができる子ども達を育てていきたいと思います。

    以上

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